伝統食の話

noguchi

オッキリコミの話

元 明和学園短期大学   野口 泰子

みなさ~ん、オッキリコミは好きですか?
温かくて、野菜がたっぷり入っていて、麺もとろけそうで、真綿にくるまれるような「オッキリコミ」大好きですよね。
その「オッキリコミ」ご一緒に、詳しく見ていきましょう。

≪群馬の粉食文化≫
   群馬県は赤城山・榛名山などの噴火により、すそ野が広い火山台地でコメ作りには適していませんでした。しかし、全国的にも冬季の日照時間が長く、乾燥した気候の為、二毛作が可能で、小麦づくりには最適な条件でした。このような中で小麦粉とともに歩んできた生活の知恵から、群馬では粉食文化が発達してきました。
群馬の粉食には、日常的に食べられる「ケの粉食」と行事食などの「ハレの粉食」があり、前者にはオッキリコミ、スイトン、ヤキモチ、ジリヤキ、後者にはウドン、マンジュウなどがあります。

≪歴史背景≫
   うどんの誕生は諸説ありますが、鎌倉時代中国から帰国した僧が製粉の技術を持ち帰り、粉食文化が広まったといわれています。
   それでは群馬の「オッキリコミ」はいつ頃から食べられたのでしょうか。
   個々の農家で石臼が使われるようになったのは江戸時代の中頃、この頃から粉食文化が発達したようで、先に書いたようないろいろな粉ものが徐々に作られるようになりました。
   農家の主婦は、夫とともに畑仕事をし、家事・育児・縫い物・繕いものなどをこなし大変忙しかったといわれていますが、幕末の頃から生糸の取引が盛んになり、群馬の女性はこれらに養蚕の仕事も加わり、言葉では表現できないほどの多忙な毎日であったようです。夕方遅くまで働いて家に戻った時、空腹を抱えた家族に少しでも早く食べられるものを作りたい、そんな思いからできたのが「オッキリコミ」でした。家で採れたいろいろな野菜を煮て、そこに手早に打った麺を入れ調味して食べる。従って、そこに入れる野菜は家々により、地域・季節によっても異なり、また麺は早くできるように、塩は使わず、こねたらすぐ伸ばし、幅広に切って下茹でしないで煮る。「オッキリコミ」は群馬の女性の家族愛から生まれた群馬の誇る郷土食とも言えるでしょう。
  「オッキリコミ」の名は「切りながら鍋に入れる」から来たとも言われています。

≪上州の女性≫
   群馬県の女性が「かかあ天下」といわれたことをご存知ですか? これは「うちのかかあは天下一の働き者」という意味で、徳富蘇峰や十辺舎一九などの紀行文にも「上州の女性はよく働く。女なくては明けぬ国」などと記されています。養蚕は当時の国策により、近代産業を支える大きな役割を担っており、群馬の女性はその大きな働き手だったわけです。

≪オッキリコミの調査から≫
   平成7年から11年にかけて行った、当時の明和学園短期大学の志田俊子先生を中心とした調査からいろいろな状況が見えてきました。
   *呼び方・・・オッキリコミ、キリコミ、ニボウト、ニコミなど。地域や年代によっても呼び方が若干異なる。
   *イメージ・・オッキリコミから感じるイメージは「温かい、おふくろの味など」で「ふるさとの味・群馬の郷土食」ととらえている人は少なかった。
   *伝承方法・・実母が55%と多いが、麺が上手に打てることは嫁入り資格の一つと考えられていた。
   *伝えたいか・「オッキリコミ」を後々伝えたいと答えたのは90%近くであったが、その理由は「家庭の味を残したい」などで、「群馬の食文化だから」というのはなかった。
   *具の種類・・にんじん、長ネギ、大根、シイタケ、ジャガイモ、里芋、油揚げなどの順。
群馬は有数の農産物生産県であるため、オッキリコミの材料はすべて県産素材で賄われる。
   *栄養的には全体にヘルシーで、カロティンや食物繊維が豊富である一方、塩分量がやや過剰なため、旨味素材の活用や、同時に食する副菜の組み合わせの考慮が必要になる。

≪オッキリコミの食べ方≫
   *年間を通して食されたが、冬季は毎日であった。身体が温まった。
   *冬に作られることが多かったが、一年中作られ、夏には汗をかきながら食べた。
   *夕食は好むと好まざるとにかかわらず、必ず麺類だった。
   *新里芋が収穫されたときや、きのこ、ふろう豆の時期は格別な味として喜ばれた。
   *野菜が多く麺も柔らかく煮えているので、消化が良く何杯も食べた。
   *夕食で残ったものは翌朝温め返して食べた。濃度が濃くなりご飯にかけて食べたりし た。「たてっかえし」と呼ばれ喜ばれた。

≪その他の粉食のいろいろ≫
   先に記載したようにオッキリコミ以外にも多くの粉食が育まれてきました。地域によって「呼び名」「味付け」などは様々です。
   *オヤキ・・・じり焼き(たらし焼き)、飯焼きもち、ほど焼きなど。
       おやきは手早くできて腹持ちが良いことから、よく作られた。
   *ダンゴ汁・・すいとん・おつみのこと。四季折々の野菜を入れて汁を作り、みそかしょうゆで味を付け、うどん粉に水を加えて軟らかめにこね、お玉ですくって入れる。みそ汁に入れることもある。
   *マンジュウ・ふかしまんじゅう、焼きまんじゅうなど。ふかしまんじゅうは小豆餡などを入れたり、春にはヨモギなどを入れ蒸す。炭酸を入れることもある。焼きまんじゅうは自家製酒の副産物としてつくられ甘辛みそなどをつけて焼く。原嶋屋が起源ともいわれる。

≪オッキリコミのこれから≫
   オッキリコミは家庭料理として母から子へと伝えられてきましたが、近年食生活の多様化に伴い、このまま継承れることはほとんど困難な状況です。このような危機感から群馬県では「県選択無形民俗文化財」・・注)として平成26年3月に登録し、今後は長野県や滋賀県のような記録作成の措置が取られるようになるでしょう。
   県内の飲食店で気軽に食べられるとともに、学校給食はもとより教育現場でカリキュラムの中で位置づけ、広く県民への伝承が求められます。本学としても食文化・郷土食伝承の見地から継続して学生に伝えていく意義を再認識しています。


注)・・県指定文化財の指定等の答申について https://www.pref.gunma.jp/houdou/x4600076.html#1/